第弐話●サザエさん
国民的ホームマンガの代表作であるサザエさん家。原作漫画のサザエさんは昭和21年に福岡の地方新聞で連載が始まりました。テレビ漫画のスタートが昭和44年ですからまさに日本の住宅業界は好景気の時期と言えます。
改めて見てみると現代の感覚では三世代2家族の住まいにしては小さいと感じます。でもこの小さな住まいは日本人の生活の知恵がぎっしりと詰まっています。
一般的にいう“田の字型プラン”の間取りですし和室が多いことも特徴です。田の字型プランは必要に応じて部屋の大きさを替えることができますし、和室は部屋の使い勝手を固定化しません。
つまり日本人は“室”という空間の仕切り方ではなく“間”という仕切り方で住まいを構成してきました。これはそれぞれの空間を必要に応じて使い分けできるという、小さい住まいでも広く使える日本人の知恵なんですね。
でも逆にプライバシーは確保しにくい住環境ともいえます。
このサザエさん家は昭和20年当時最も一般的な間取りです。家長(波平さん)の寝室と客間を日当たりのいい南側に配置し、個室や団らんの場である茶の間を北側に配置。
トイレはくみ取り式が一般的でしたから住まいの一番奥に配置しています。広縁は別名“表廊下”とも言い、お客様専用の通路として利用していました。
ここで注目したいのがサザエさんの部屋の位置です。所帯が別というのは言い換えれば別の家族です。磯野家とフグ田家を廊下を使って絶妙な距離感で分離しています。
さらにもうひとつ子どもたちの部屋も注目です。 テレビでは広そうですけど実は4畳半を二人で使っていたのです。さすがにこの狭さだと部屋にこもりにくいですね。
さらに茶の間のそばというのも家族とのコミュニケーションを活発にする要因なのかもしれません。玄関から“ただいま”の声が届きやすい場所に茶の間(団らんの場)があることも楽しく暮らすためには重要 なのかもしれません。
この当時の間取りは家族のプライバシーを確実に確保することは難しいのですが、家族の和とか絆といった本来家族に大切なことが自然と育める工夫があるのかも知れません。
それは他人への気遣いとか思いやり、開けられるけど勝手に開けないドアなど、大人の社会に巣立っていくための子どもたちへの“躾”も同時に行える環境でした。
そんな住文化を育める間取りこそ、家族崩壊の危機といわれる現代に必要な環境なのかもしれませんね。
第参話●ドラえもん
ちびまるこちゃんに続きもうひとつの国民的TVマンガが「ドラえもん」。夢のような道具が出てくるドラえもんの異次元ポケットは誰でも欲しくなる一品ですが、何はともあれ、とにかくドラえもん(野比のび助)宅を見てみましょう。
原作のドラえもんは1969年(昭和44年)に小学館から発行されています。1973年(昭和48年)にTVマンガの放映が始まりました。時はまさに高度成長期時代。
当時のサラリーマンが夢に見たマイホームの代表例とも言える間取りです。玄関脇に応接室があったなんて気づきませんでした。主な居室は和室が中心というのもこの当時の主流だったんでしょう。
でもしかし、時代錯誤とあなどれないのがこの和室と床の間です。季節ごとの風物詩である雛人形や端午の節句を飾ったり、お正月には鏡餅が鎮座したりと日本文化を感じる場所でも あるのです。
最近では床の間はおろか和室さえ存在しない住まいが多くなってきましたが、これって実は家族生活に大きな影響を与えているんです。
その最たるものが、“こどもをしつける場所”がなくなったこと。
お宅ではお子さんをどこでしかっていますか?前々回のサザエさんの家でも、波平さんの部屋には床の間が存在し、カツオ君はそこでよくしかられています。
のび太君はお父さんよりお母さんにしかられるシーンが多いので、床の間で父親にしかられるシーンは記憶にありませんが、多分お父さんがしかるときはこの床の間を背にしてしかるのでしょう。
子どもが育つ過程ではこのような住まいの中でちょっと気が引き締まる場所が必要だと思うのですがどうでしょう。
その他間取りで気になる部分といえば、DKが狭いことと2階の和室の使われ方でしょうか。使われていない 応接室といい、使用意図が不明な2階の和室といい、狭いDKも含め、この家族の暮らしぶりにあっていない住まいの典型的な例ではないかと思います。
でもこのように実際の暮らしぶりにあっていない住まいが現実に多いのも事実。自宅に異次元への出入り口が無いご家庭は、もう少し自分達の暮らしぶりにあわせた住まいにしたいものです。
この機会に自宅の間取りと自分達の暮らしぶりを考え合わせながら、住まいのリフォームを考えてみるもの楽しいかもしれませんね。